『なぜ住宅性能は極力高くするべきか(その5)』
前回までは断熱・気密性能について、なぜ、予算が許す限り極力高いレベルを目指すべきかの理由を話してきました。
今回は、前回にも少し触れた『Ventilation換気』について、なぜ必要なのか、どういった換気機器を採用すべきかを話していきたいと思います。
前回までをまだ読まれていない方は是非、下記バックナンバーから順番に読んでみてください。
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【 Ventilation 換気 】
建築物全般ですが、特に生涯で過ごす時間が長い家は人体に影響のない環境を整えなければいけません。
そのためにも20年ほど前に建築基準法でようやく24時間換気が義務付けされたのです。
もし換気が機能していないと、空気という観点から悪影響のある物質は様々な形で室内を漂っています。
ウイルス・花粉・PM2.5・ダニ・カビの胞子・路上砂塵・黄砂など、必ず繰り返される玄関ドアの開閉や衣服への付着により室内へと入ってきてしまいます。
風邪やおおくの病気は元となるウイルスや病原菌が原因ではあるのですが、その前段階の気管や肺等呼吸器が弱まったり、炎症を起こしたり、免疫を下げる原因の多くは、体力が下がった時にカビの胞子を多く吸ってしまっている、花粉や黄砂などを吸ってしまっているという所から始まっていることがあるのです。
また、建築の際に使われる建材から発生する化学物質も、規定はあれど、生活しだしてから長い年月をかけながら人体に影響を与えてしまいます。
どれだけ自然素材を使っていても、多くの家づくりで使用しているであろう建築用接着剤や石油製品(プラスチック系、樹脂系、ビニールクロス、シート etc…)など、ドアや窓、キッチンやトイレ洗面、照明、コンセント、集成材、合板、断熱材など、あげるときりがなく、完全に自然素材だけで家が建っていることはほとんどありません。
(中には完全自然素材を目指す強者建設会社もほんのわずか日本に存在します)
また、完全自然素材を目指すがために失うものが多すぎて、現在では有害化学物質を規定量しか含んでいないという認定表示をもとに、素材選びをしている会社がほとんどです。
ちょっと怖い言い方になりましたが、新築に限らず、賃貸やマンション、オフィスビルやデパート、乗り物や衣服全般にも同じことは言えます。
食べ物でもそうです。
また、建材からにじみ出てくる化学物質だけでなく、衣類や布団類、生活用品や洗剤等消耗品、化粧品や食品等々、実は身の回りに多く存在しており、それらを意識して生活しているかどうかでも人体への影響は変わってくるという研究をされている方もいるほどです。
その他にも、二酸化炭素や一酸化炭素、硫化水素の濃度等、料理や生活の中で生じるであろう人体に影響のある化学物質の規定量というものは、法律で定められて制限されています。
このように、生活の中では室内に存在する多くの汚染物質を排除するべく24時間換気が義務付けられているのです。
ただ、前回の話でもあったように、気密性が高いレベルで確保されていないと、家中まんべんなく正しく換気ができず、汚染された空気がずっと滞てしまうということが起こります。
汚染物質を排出するだけでなく、生活や他の住宅性能の度合いによって生じる湿気の排出が上手くいかない場合は、新たなカビや腐朽菌、ハウスダストの発生ばかりが進み、やはり呼吸器疾患やアレルギー、アトピーといった症状を起こしたり新たに発生させたりもするのです。
【 Nightingale ナイチンゲール 】
ナイチンゲールの看護覚え書というものをご存じでしょうか?
その第一章 「換気と保温」 の冒頭で次のような言葉があります。
『よい看護がおこなわれているかどうかの判定をするための基準としてまず第一に挙げられること。
看護者が集中して細心の注意をすべき最初で最後のこと。
何はさておいても患者にとって必要不可欠なこと。
それをしなかったら、貴方が患者にする他の全てのことが無に帰するほど大切なこと。
逆に、それをしさえすれば他の全てのことは放っておいてさえよいと私は言いたいこと。
それは、
患者が呼吸する空気を、患者の身体を冷やすことなく、清潔に保つこと。
である。』
ヨーロッパではナイチンゲールがいた150年以上前から、換気や保温について、人体にどれだけ影響を与えるかを重要視してきたのです。
その点日本では断熱や換気は20年~30年前にようやくで、今尚、主要先進国の中では最低ラインにいるのが現実であり、さらに断熱や気密性にいたっては義務化すらされていないのが現実です。
(再来年からようやく義務化される断熱基準も先進国では人体に悪影響を及ぼす違法建築物レベルの断熱基準です。)
このような背景が、ヨーロッパに比べて日本の住宅性能が30以上も遅れているという現状を生み出している一つなのだと思います。
【 換気にまつわる小話 】
弊社のある実物件での話です。
普段から結構適当なAさんは、ある年の1月1日になって鏡餅を買い忘れていることに気づき、慌ててスーパーに行くも閉まっていました。
しょうがないから近所のコンビニで買った食用の小さな紅白餅を買って、むき出しのまま神棚に重ねて置き、偶然コンビニにあった葉みかんをその上に置いていました。
正月も明け、1月17日に両親が遊びに来て神棚に目をやるとまだそのまま食用紅白餅は飾られており、両親は
「罰当たりやね!こんなことしてから!」
と怒っていたそうです。
そんな事言ったって...と思っていたAさん、ふと両親のいる神棚の方を見ると、何やら二人とも紅白餅を手に取り不思議そうに見ていました。
「これ、なんでカビ生えてないと?」
と不思議そうに聞いてきた両親に、Aさんは
「気密性がめちゃくちゃ高い家だから換気がちゃんと機能して他の家と違ってカビの胞子が滞ることが無いんよ。 しかも断熱性がかなり良いから適温適湿に保たれてるからカビが生えにくい環境やし。 オレ、新築してから風邪とか全然引かんくなったやろ? そういうこと。」
と答えたそうです。
いまいちピンときてなかった両親でしたが、これは面白いと思ったAさんは、そのまま餅を放置していたそうです。
そして、2月末まで結局カビは生えず、もういいやと思って処分したそうですが、通常の日本の家では、餅をむき出しにして放置するとおおよそ5~7日でカビが生えるようです。
長くても2週間以内とのこと。
温熱環境が整い、高い気密性と換気が機能している家であれば、カビや病気のリスクからかなり遠くなるという一つの例です。
【 換気の種類 】
もうすでにご存じの方もいるかもしれませんが、家づくりでよく比較される換気の種類としては、1種換気と3種換気があります。
1種換気は給気も排気も機械式で、熱交換や湿度交換が可能になる方式です。
3種換気は排気のみ機械式で強制的に室内空気を排出する事で家の中が負圧となり、その圧力を戻そうとする力がはたらいて、給気口(穴が開いているだけ)から新しい空気が入ってくるというものです。
それぞれにメリットデメリットがあると言われ、以下のような事です。
<1種換気>
メリット・・・熱交換、湿度交換してくれるので冷暖房除湿負荷がかなり抑えられる
デメリット・・・3種に比べて電気代がかかる、交換等ランニングコストが上がる
<3種換気>
メリット・・・1種に比べて電気代、交換等ランニングコストが少なくて済む
デメリット・・・夏冬の冷暖房除湿負荷が高まり、光熱費が上がる
といったものであり、どっちもどっちじゃないかというような感じです。
ですが、今後も光熱費が上がっていくことは明白であり、ヒートポンプを使った熱交換ユニット(エアコンや給湯機など、内外温度差によって電気代が増減するようなもの)である冷暖房除湿需要負荷が高まる方が、今後も確実に不利になること、そして、そもそもの快適性を目指した時に夏場のじめじめした空気がそのまま入ってくることや、冬場の冷気がそのまま入ってくることは極力避けたく、また、結露問題にも繋がってくるので、それ相応の対応対策をした施工をしなければいけない為、結局はイニシャルコストでもそこまで大きな差は出ず、ランニングコスト、トータルコストで1種換気の方が勝ってしまうのが現実です。
1種換気でも、顕熱交換タイプ(温度だけ交換)と全熱交換タイプ(温度湿度交換)があり、またその熱交換効率のことや、最近はやりのダクトレス熱交換(おすすめしない)もあったりまします。
九州では梅雨時や夏場の除湿需要の観点から、必ず全熱交換タイプの選定をお勧めします。
もう少し深いところや他の住宅性能と絡んだ話となりますので、この事についてはまた別途回を設けてお話していきます。
次回は Seismic design (耐震設計)について話していきます。
お楽しみに。
早くにより詳しく知りたいという方は是非一度ご予約の上、私の話を聞いてみてください。
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